愛蘭土倫敦紀行 ダブリン・ロンドン4泊7日の旅(16)

バッキンガム宮殿

 ウェストミンスター寺院からバッキンガム宮殿へと急ぎます。
 急いでいるのは、バッギンガム宮殿女王居室の閲覧の予約を15分刻みの時間指定が出来る予約でしていたから。
 ここで、娘が「家に帰る」ということをしきりに言います。時差ぼけと連日の強行軍で疲れているのだと思います。私もかみさんも食事がちゃんと取れていません。かみさんの言葉もとげを含むようになっています。天気はすぐれず、曇天の下、小雨が続いています。
 旅の前途の多難を感じる私の心は不安に満ちていました。道に休むところを探します。サンドウィッチなどを並べているお店に座る席がありそうなので、飛び込みます。
 陳列している商品をみると、日本のサンドウィッチよりずっと肉がしっかり入っている。まともな昼食になりそうなので、安心します。コーヒーも2ポンドとリーズナブルですが、たっぷり入っている。簡素な窓際の席だけがある、と思っていたら、地下階があり、上の店舗の大きさとまったく同じ大きさのフロア全面が、すべて客席となっていました。購入したパンとコーヒーを持って地下に進みます。ゆったりとした空間です。座り心地の良い椅子に体を預けて、落ち着きます。娘は姉が作ってくれていたダブリンからの持ち込みおにぎりをほおばります。かみさんはコーヒーのボリュームとパンの出来のよさに満足します。私も安心をします。
 こうして仕切り直しができた私たちは、バッキンガム宮殿に進むことができました。途中、道にウェストミンスター大聖堂という、寺院とは別の、特徴的な外観を有している教会を見つけました。あとで、地図を確認すると、バッキンガム宮殿を正面からではなく、脇のほうから回り込む道筋となっていたようです。
 ともあれ大通りに出ると、すぐそこが、女王居室の閲覧のための入場口となっていました。早速に並びます。
 女王が避暑で不在の間の期間限定のことなので、かなりの人が押し寄せています。セキュリティチェックもあり、事前予約していても数十分の待ち時間が生じてしまいました。
 中庭を眼下に進んでいき、公開されている19室を順に巡っていきます。飾られているもの全てが、たとえば階段の手すりさえもが、豪華にして絢爛。歴史的ないわれのあるものです。
 音声ガイドが非常に有効で、事細かな説明をしてくれます。この音声ガイドに従うと、歩みはゆっくりとなり、観覧に1時間半程度を要することとなります。音声ガイドは適当に、さわりのところだけをと思ったのですが、娘がこの音声ガイドがいたく気に入ったようで、しっかりと聞いていて、「パパ、ママ、まだ説明終わっていないのに、先に行かないの」などと言います。元気を取り戻しておもしろがっている娘の姿に、胸をなで下ろし、安堵のため息を吐きます。
 一部屋、一部屋にトーンがあります。ラピスラズリを模した青い柱の部屋。白と金色とのツートーンの部屋。めくるめく色彩の変化が楽しめます。
 カメオを嵌め込んだ恐ろしく手間のかかった机や、化粧台を利用した隠し扉など、様々な調度品も飽きさせません。
 紛れもない、王宮かくあるべし、という王宮の極みの体験でありました。
 中庭に出て記念品ショップをすり抜けて、順路に従い王宮をあとにします。池に沿って、王宮の背後へと出て行く道のりです。
 この順路が痛恨の結果に。バッキンガム宮殿の、正面でなく、脇から直接、入ってしまった結果として、宮殿の正面についに一度も立つことなく退去してしまったのでした。
 空は相変わらずの曇天。小雨は続いています。ここから正面に戻る気力はなかったのでした。旅が終わってから振り返って、かみさんは、この点を最大の問題点として非難するのでした。