愛蘭土倫敦紀行 ダブリン・ロンドン4泊7日の旅(17)

ハロッズアフタヌーンティー

 バッキンガム宮殿を裏手に抜けて、そのまま徒歩でナイツブリッジへと進みます。徒歩で800メートルほど、という見通しのもと進んでいきます。通りには大使館やデパートなどが並びます。行き交うバスも多いです。通りに面した建物の多くが古く歴史を感じさせる一方で、そこに現代の最先端のブランドが軒を並べるというあり方は、今までに見たことのなく、不思議なかんじがしました。特に工事の足場が木材で作られていて、その先に老舗デパートのハロッズの煉瓦造りの中東的な雰囲気のある建物が見えてきたとき、自分たちはアラビアンナイトの世界の見知らぬ国に迷い込んだのではないかとさえ思えてくるのでした。
 東洋人が西洋において、逆説的に、オリエンタリズムを感じたのでした。
 ハロッズは、世界一有名なデパート。このデパートのかつてのオーナーの息子がダイアナとともに事故死したのでした。デパートには二人のモニュメントが飾られ、それが一つの観光名所ともなっているのだそう。
 バッキンガム宮殿の目と鼻の先で、そうしたモニュメントがある、というのは、なかなか興味深い。
 そして、かつてのオーナーがエジプト出身で、今はカタールの政府系のファンドがオーナーとなっていることを知り、店内にはオリエンタルな雰囲気が濃厚に漂っていて、アラブ圏の客が多く行き交っていることを目の当たりにすると、単純なゴシップということに止まらない、民族的・国際社会学的な深い問題なのだということに気づきます。
 ハロッズの規模の大きさ、顧客と店員の多様な民族のありよう、店の格調などに圧倒される思いがします。デパートの中にいることで、こんなに緊張したのは、はじめてのことです。
 アフタヌーンティーを一度試してみる、というのが、ロンドン観光の課題の一つでした。ハロッズこそがその舞台であろう、という私の信念に従い、緊張の面持ちで、喫茶へと足を進めます。高い天井の下の広いフロアで、上品な内装がされています。使われている食器類は全てハロッズのオリジナル。先ほどのバッキンガム宮殿とも遜色のない、高級感が漂います。
 客はアラブ系が多く、白人も何人かはいて、日本人と覚しき旅行者は一組だけ、という客の構成。全ての客が身なりもよく、庶民の立ち入れない雰囲気が漂っています。
 注文したのは二人分のアフタヌーンティーと娘のオレンジジュース。席に着くまで大部待たされ、席に着いてからも大部待たされました。
 時間が空くので、自然と周囲に目がいってしまいます。アラブ系の人々は、20代、30代の若い人も多いのですが、一様にふくよかです。スマホをいじったりしている。オイルマネーで潤っている特権階級なのかな、お金を使うことそれ自体が目的化しているような人生なのかな、などと思ってしまいます。
 スコーンとサンドウィッチとケーキという3系統のものと、紅茶の組み合わせ。生ハムやチーズなど、サンドウィッチの素材の高級さに感動します。ケーキもチョコや果物などによい素材を使っていて、とても美味しい。しかし、スコーンはどれだけ高級であってもスコーン。粉っぽく、くちが乾き、飲み込むのに四苦八苦します。この障害物のようなスコーンを乗り越えての、サンドウィッチとケーキという構図です。
 紅茶は、パックになった紅茶が入れられた急須の状態で提供されます。どんどん濃くなっていく、という意外とぞんざいな扱いです。紅茶とともに、スコーン、サンドウィッチ、ケーキを楽しむ、という形式が大事なのであって、紅茶そのものの素材はそれほど重要視されない、ということのようです。
 デジカメを構えて写真を撮るのもはばかられるような店の雰囲気の中、アフタヌーンティーを終えました。お値段、80ポンド。チップを添えます。
 人生で一度で十分ですが、貴重な体験だったと思います。