夫婦・卒業旅行(10)ミラノ

 ヴェネツィアを離れ、ミラノに至り夕食がはじまります。
 日程表には次の日の昼食に、ミラノ風カツレットが出ると書かれている。毎食のメニューが紹介されているわけではないのです。あえて書かれているメニューはツアーの売りなわけであり、契約事項であるわけです。
 ところが、翌日は空港への移動での混雑が予想され、したがって昼はサンドウィッチに変更する、ということとなりました。
 カツレットが出されない、というのでは契約違反になる。
 で、解決策としてどうしたか。
 繰上げする。その前日であるミラノ到着日の晩にカツレットが供されることになったわけです。もちろん、それ以前に決めてあった料理も出される。
 ピッツァ、リゾット、カツレット……重いです。軽めの食事が続くなか、この日の夕食だけが、際立って量が多かった。
 
 次の日は、パリへと発つ昼までのわずかな時間でミラノ観光です。
 ミラノのドゥオーモとガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世アーケードを巡ります。
 ヴィットリオ・エマヌエーレ2世アーケードは何やら見たことのある雰囲気。そう、そう。これって、まるで……「ディズニーランドみたい、だなんて言わないでくださいね。ここをディズニーランドが模倣しているんですから」とガイドさん。……そういうことだそうです。
 ミラノのドゥオーモはイタリア最大のゴシック建築。とにかくどでかい。屋根の上に登ることができます。尖塔の立ち並ぶ、屋根の上はまるで大理石の森。無数の聖人たちの像の姿は、この森に迷いこんだ人間を石にしてしまう魔力が、ここにはあるのではないかと錯覚させるものでした。
 教会のなかでは、おりしもミサが行われ、重厚なパイプオルガンの音色が響き、賛美歌が歌われています。
 世界で二番目の体積と面積とを誇るこの教会の内部では、霧がたちのぼっているのか、はるか先のほうはかすんで見える。野太い石の柱が教会内部に、ぬ、と立っているのも迫力があります。その圧倒的な壮大さとパイプオルガンの重厚さとがあいまって、なにかとてつもないところに導かれていく思いがしました。
 
 この教会、完成するまでに五百年かかっているとのこと。
 五百年という時間スケールの中で引き継がれ、引き継がれ、なされる仕事があるのだということ。その時間スケールが当たり前のものとして感覚されるような環境が、イタリアにはいたるところにあると思いました。