嗜好の変化

 歳とともに嗜好も変わる。
 昔好きではなかったおでんを、今はたまらなく美味しく思います。お酒を飲むようになり、その伴に最適だということ、フライなどあぶらものが体にこたえるようになったこと、そのような加齢に伴う変化によるものだと思います。
 
 十代の頃、川端康成の『雪国』を読んで、「なんじゃ、これ。商売女と擬似恋愛やって、思わせぶりだけど中身のないこと書き綴ってるだけだがな。はあ? なんで、こんなんが名作だと評価されとるん?」
(十代なので、鳥取弁ぽくしてみました)
と思いました。
 その頃ヒットしていた『マディソン郡の橋』とか『失楽園』についても、首を捻りました。意味が分かりません。文学として成立しているのだろうか、こんなの商品にしていいのだろうか。世間の評価というのは、まったくナンセンスだと強く感じました。

……結局、そういう作品に萌え要素を見出す(オトナの)人たちがいて、それで評価されていたのだと思います(父と私とが、ボロクソに評価した映画版の『マディソン郡の橋』を母と妻とが涙流さんばかりに嵌って観ていたのが、笑えない笑い話です)。そして、そういう萌え要素に当時の自分が反応しなかったための、世間の評価からの乖離だったのだと思います。
 で、今は。
『雪国』読み返して、感動するかもしれない自分が怖くあります。そういう作品に萌えるかもしれない、自分の加齢とそれによる経験とを怖れます。