夫婦・卒業旅行(13) パリ(3) 続・ルーブル美術館

 再びルーブル美術館へと向います。
 実は、これがこの旅初めての単独行動。ラファイエットからルーブルまで、ただひたすらにまっすぐ道を行くだけなのに、えらく緊張します。建物も道路も日本に比べてデカイ。そのため、歩いた距離のわりに景色に変化がない、との印象を受けます。
 ようやく到着。硝子のピラミッドの前の入り口で手荷物検査を受けて、再侵入。
 先ほどは、ただひたすらガイドさんについて歩くだけであったのですが、今度は自分で目的地を見定め動かなくてはなりません。
 団体ではまったく省かれてしまったオリエントのものを見たい、と思い定め、巡ります。
 ところが、まったく思いどおりに進まない。自分のお目当てのところになかなか行き着かない。同じところをぐるぐる回ってしまう。そんなこんなで時間を費やすうちに、だんだんとこの奇怪な迷宮の構造が分かってくる。
 そして、ついに。
 ハンムラビ法典とのご対面。
 ぽつねんと置かれている。硝子で仕切られるでもなく、無造作に置かれている。あたりには観光客の姿がない。
 名高きハンムラビ法典の、あまりにひっそりとしたたたずまいに、本物かしら、と首をひねってしまいます。じっくり舐めるように見ていくうちに、やはりこれは本物なのだ、という確信のようなものを覚えました。みっしりと刻まれた楔形文字の一つ一つを目に焼き付ける。そうこうしているうちに、ガイド付きの中国人団体客が訪れ、その確信の正しさを保証してくれる。四千年を経てなお失われることのない言葉と、言葉を残す石碑とに感嘆の念を禁じ得ません。
 アッシリアの有翼人面牡牛像を見上げ、その壮大さに圧倒され、獅子のレリーフなどの美しさに古代ペルシアへの興味をかき立てられる。
 古代エジプトの乱雑に並べられた棺のあまりの多さに、さすがに道義心を刺激される。それにしても犬をはじめ様々な動物の像の、なんと生き生きとしたことか。
 収蔵品のあまりの多さ、あまりの見事さに、ほとんどおかしくなりそうでした。
 あっという間に、時は経ち、ラファイエットに戻ることとなりました。
 地下鉄を利用してラファイエットに。初めて、ただ一人の外国での地下鉄利用に、胸が高鳴ります。
 ラファイエットでは、かみさんが待っていた。私を見つけちょっと安心したかのように、そして申し訳なさそうに。聞けば、念願のルイヴィトンの財布を手に入れたのだけれど、トラベラーズチケットにサインをしていなかったために、トラベラーズチケットを使うことができず、現金で支払ってしまったのだ、ということでした。旅の初歩的なミスのようです。ルーブルで熱病めいた興奮状態にあった私は笑い飛ばします。そんなこと気にすることじゃないじゃない、ぬわははは、長い間欲しくて欲しくて仕方がなかった、ルイヴィトンの財布を買えて良かったねえ。
 あとで聞けば、その財布、3万円強とのことで、現金はほとんどなくなっておりました。