夫婦・卒業旅行(7)ピサ

 斜塔で名高いピサ。
 ガリレオが実験をしたともされるピサの斜塔

 観光バスの乗り入れが禁じられているため、街を歩いて進み、城壁を越え、ピサの大聖堂へと進みます。大聖堂は大聖堂で、威風堂々とした迫力がある。
 そして、その背後に聳える塔は。
 ううん、傾いてます。思いっきり傾いています。実際目の前にしても、実感のない不思議な感じ。
 単に傾いているのが面白いだけでない。そもそも塔のかたちが美しい。西陽を浴びて白く輝く塔の、幾何学的な造形の巧みさに言葉を失います。
 中に入り、塔を登ることができるとのこと。登ることが許可されるようになったのはごく数年前のことだそうです。なんとかと杉澤鷹里は高いところに登りたがる。これは登るしかない。
 階段は螺旋になっている。ただひたすらぐるぐると周りながら登っていく。だから自分が塔のどの位置にいるのか分からないのだけれど、どちらに傾いているかは、身体が知らず寄っている方向で分かる。塔の内側に身体が寄る、しばらく進むと今度は塔の外側へ。これの繰り返し。そして面白いことに階段の磨り減り具合もまた、人の身体の動きを反映している。
 そして塔の頂上に出れば。
 そこからの眺めは壮大でした。
 ピサの街が、そしてその向うの平原が、地平の彼方まで見える。360度、ぐるりと一周、遮るものは何もない。塔の地上に傾くほうでは街がより広く、その反対側では空がより広く見える。
 塔の地上に傾くほうへ向かえば、まるで投げ出される心地がして、私はおおいに恐怖を感じたのでした。高いところに登りたがるくせに高所恐怖症なのです。ほとんど壁にへばりつく格好で、「写真を撮って!」とせがむかみさんの写真を撮る。
 雲の裂け目からは陽光が差し込み、幾条もの光のすじは、空と街とに美しいグラデーションを与えていました。それはそれは素晴らしい眺めでした。いつしか私は私の恐怖心を忘れ、かみさんと並んで景色に見とれているのでした。