夫婦・卒業旅行(8)フィレンツェ

 花の都フィレンツェ。街全体が巨大なテーマパークのよう。広場には何気にダヴィデ像(レプリカ)が置かれていたりします。いやいやそれだけじゃない、いろんな像が、有名な像が並びまくってます。テーマパークならあまりにあざとい、リアルさに欠ける、品がないと言われるかもしれないほどです。
 圧巻はやはりフィレンツェのドゥオーモ、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂でありジョットの鐘楼であるように思います。巨大な丸屋根は周囲を圧する迫力があり、壁をなす白、緑、ピンクの大理石の配色が美しい。描かれた宗教画や据えつけられた聖人の像は無数であり、私の感覚からすれば少々気味が悪いほど。なじまぬ文化ですが、それこそ海外旅行の醍醐味。日本では味わえぬ新鮮な刺激に酔いしれたのでした。

 ルネサンス美術の殿堂、ウフィツィ美術館を訪れます。ボッティチェリミケランジェロレオナルド・ダ・ヴィンチに……、兎に角、錚々たる芸術家の錚々たる作品の本物が並んでいる。
 回廊から覗かれるヴェッキオ橋も素晴らしい。まるで宮崎アニメのようなファンタジックな魅力に富んでいます。……っていうかここの雰囲気を宮崎アニメが取り入れたのでしょうけどもね。
 そしてガイドさんの説明が的確で面白いものでした。「この絵と、この絵、先生のものと弟子のものなのですが、この二つには決定的な違いがあります。この膝のところを注目してください」などという説明で、ふんふん、なるほど西洋絵画はこういうふうに発展していったのね、などと、理解した気になります。

 フィレンツェのみやげ物として添乗員さんに勧められたのは、革製品。なめしの技術と着色の技術に優れているそうです。
 確かに色とりどりの革製品が露店に溢れています。
 「露店ではディスカウント、オッケーです」 この説明に俄然やる気を持った人間がいました。他ならぬ、うちのかみさんでございます。420ユーロのラクダの革ジャンを140ユーロにまけさせると、それで火がついたのか、次から次へと露店に踏み込んで、信じられぬような値段をふっかけて、まけさせていく。「あの。安物買いのゼニ失いという言葉があって……」などという私のつぶやき声など彼女の耳に入らぬよう。体が弱かったためもあって中学も碌に行っていない彼女ですが、五つの言語を操る語学力(語学力というより、自分の意志を通じさせる力というのが適切でしょうか)は半端ではない。財布二つ、キーホルダー四つ、鞄一つ……次から次へと交渉を重ねていく。まあ確かに、彼女の交渉術はたくみだし、何より安く買いたいとの意気込みがあって、本当に安い値段で良いモノを買っているとは思います。だけれど、普段、菓子パン一個でも無駄ガネを使うのを嫌がるじゃない。そんな人間が、次から次へとモノを買っているという変貌に、正直驚きを隠せませんでした。これも旅は高価……もとい旅の効果でしょうか(泣)