夫婦・卒業旅行(12)パリ2 ルーブル美術館

 ルーブル美術館の廊下は全長16キロメートルあるのだそうです。迷ったら、その時点から自由行動してください、と、添乗員さん。
とてもじゃないけど、この巨大な美術館の中で再合流なんて不可能なんだそう。
 ツアーでは、一時間強でこの広いルーブルを回ることになっている。展示されたもののうちの本当にごく一部をスポットで見ていくわけです。
 それでも、それでも、充分以上に充実した出会いがある。
 ミロのヴィーナスがいきなり目の前に立っている。美しい曲線を描くこの彫像の欠落した部分について、ガイドさんが様々な物語を付け加えてくれる。
 レプリカをどこでも見ることのできるものではあるのだけれど、壊れかた、傷のつきかたなど、細かな一つ一つがありありと分かり、ただ一つの本物であることを伝えます。
 多くの廊下、階段が集合する、その中心に首のない像が置かれている。
 サモトラケのニケです。
 ミロのヴィーナス以上に欠落のあるこの彫像の、欠落ゆえの完全さよ! 
 長年出会いたいと思っていたこの像の躍動感に、圧倒され、打ち据えられる思いがしました。
 ……ヒロインが飛び立とうとし、それなのに首を切り落とされ、それでもなお飛び立とうとする、そういうシーンがその物語において決定的な意味を持つような物語を書きたい、という思いを抱きました。

 その後も衝撃的な名作との出会いが続きます。
モナリザ」「ナポレオン一世の戴冠式」「民衆を導く自由の女神」……一作ごと、自分なりの思い入れのある作品たちとの出会いに、それぞれ感動する。何とも慌しい、感動のラッシュです。

 あっという間の一時間を過し、ルーブルを離れ、バスで移動です。昼食があり、提携しているらしい三越を紹介される。
 そして巨大ショッピング・モール、ラファイエットでようやく解散となり自由行動となったとき、行く先は迷うことはありませんでした。
ルーブルに戻ります」
 ルイヴィトンの財布を買うのだ、と目を爛々と輝かせているカミさんから逃れ、一人ルーブルへ戻ることを宣言したのでした。