倉敷・広島の旅(3)

倉敷

 倉敷に降り立ち、美観地区を目指します。駅から徒歩十分。やがて漆喰塗の白壁の町並みが現れます。たゆたうている倉敷川の緑の川面も美しい。明治か大正の時代に遡ったかのよう。大原美術館ギリシア風の建築様式も、有隣荘の緑の瓦も、その庭の形よく整えられた松も奇っ怪にして典雅。夢の中にいるようです。空は晴れ、春のそよ風と穏やかな日差しとが、たまらなく心地よい気分にさせます。
 折しも、倉敷音楽祭街角コンサートが催されており、スイス風の衣装をまとった人たちによって、ヒトの身長より遙かに長いホルンが吹かれ、うら若きバレリーナが舞う。古い町並みとのギャップが何とも不可思議で面白い。
 いにしえの商家の多くがそのままに、現在の土産物屋となっている。その中の一つ、日本郷土玩具館を訪れる。
「あ。これ」思わず声を上げます。棚には飾られている。オーケストラを構成する、数十体の陶器の人形たち。その人形に見覚えがあったのです。我が実家の玄関で、十年来四重奏を組んでいる人形たちがいて、その仲間だと見た瞬間に分かったのでした。予期せぬ出会いに、思わず携帯を取り出し、写メを母に送ります。ちなみに一体五千円。オーケストラを構成するには、ちと我が財布は軽すぎる。
 美観地区を離れ、ビートルズの流れるお洒落な店で手頃な値段の洋食を食べ、駅に戻ります。美観地区とは反対の方向に駅を出れば、チボリ公園が臨まれる。「入場料は一人二千円で……」とガイドブックを読み上げると、かみさんがじろりと私をにらみます。残念ながら、チボリ公園に入ることはせず、駅から、その雰囲気を感じつつ、写真撮影をするにとどめました。
 ちょうど下関まで進むシティライナー(12:59発)が、駅に到着しようとする時間。青春18きっぷを振りかざし、再度ホームへ。広島まで乗り換えなしで進みます。