愛蘭土倫敦紀行 ダブリン・ロンドン4泊7日の旅(2)

査証取得

 前回、イタリア・フランス旅行の際にも書きました。
 現在、観光目的で訪れるのに、査証を必要としない国が多く海外旅行に慣れたかたでも、あまり査証の取得について、意識されることがないのではないでしょうか?
 ただし、それは日本人にとって、です。日本のパスポートは最強のカードです。国境を越えた移動をしようとするとき、日本人が特権階級にあるということを痛感します。
 国際社会には、厳密なランク付けがあって、下位に属する国々の民は、今なお移動の自由がない、というわけです。
 ともあれ、査証の申請というのは煩わしい作業です。イタリア・フランスはシェンゲン協定国ですから、申請は一つで済みましたが、イギリスはそうではないので、イギリスはイギリスで、アイルランドアイルランドで別個に査証の申請が必要になります。
 つまり、煩わしさ倍増、な上に、イギリスもアイルランドも、査証についての、要件や申請の書類の書式が全て英語。要件を読むだけで、うんざりしてきますが、そのうちに恐ろしいことが分かってきます。
 書類は全て英語で用意してください。英語でないものは、翻訳して公的な証明をしてください、というようなことが書かれています。慌てて、我が故郷の役場のサイトに行って確認するが、英語の書類は用意できない、と書いています。山陰の町役場が、いかに国際社会から孤立しているか、と悪態をついても仕方がないので、さらにネットで情報を得ていくと、自分で翻訳して、翻訳したものを公証人に公証してもらえばよい、ということが分かってきます。
 公証人? なんじゃそら? 耳慣れぬ言葉が出てくるので、さらに調べていくと、世の中には、公証人役場という公的機関があることが分かってきます。誰それが、こういう発言したとか、目の前で署名したとか、ということを公的に証明する仕組みのよう。離婚の際の遣り取りなどで、利用されることがあるようです。勉強になったなあ、と関心をし、そして調べを続ける。神戸には元町大丸近くの、旧居留地にあることが分かります。
 たとえば戸籍謄本については、訳例を紹介してくれているかたもネットにはおられたので、それを参考に自分でも翻訳ができそうです。
 銀行などははじめから英語の書類を用意してくれましたから、結局翻訳しなければならなかったのは、住民票と戸籍謄本それに所得証明の計3通です。所得証明は特に苦労しました。日本語でもいまいち分からないお役所言葉を、さらに英語に直していくので、その作業は遅々として進みません。単数でいいのか、複数なのか、といったことでも悶々としながら、作業を進めていく。
 そうして一週間以上をかけて作った、ヒトの見まねでできた、いかにも怪しい書類を、時間の空いたときに、元町まで持って行く。正直、とても不安でした。本当にこんな手続きが、通用するんだろうか? 
 おしゃれなお店の犇めく旧居留地にあって、公証役場は、それほど大きくはない、殺風景な、まさに村役場の雰囲気でした。
 あまり持ち込まれることの多くない依頼内容であるらしかったようですが、ご年配の「公証人」に、丁寧な対応をしていただけました。ちなみに、この公証、内容を保証するのでなく、「私には英語の能力が十分にあって、精一杯の力で翻訳しました」という文章に私が署名をするのを見届けた、ということを証明するだけです。
 そして、この公証、思いっきり御高額です。一つのセット(住民票・戸籍謄本・所得証明とその翻訳と公証内容がホッチキスで綴じられます)に対して1万円以上がかかります。イギリスとアイルランドそれぞれに提出しますので、費用は2倍になります。あまりの料金に、言葉を失いました。
 ともあれ、そうして苦労して書類を用意して、ネットで査証申請を進めていきました。この入力がまた、煩わしくすぐにエラーになって振りだしに戻ることを繰り返します。
 イギリスは大阪の査証の受付センターに提出。委託の業者がしているのだと思うのですが、それでも申請の際には、大使館ばりに、持ち込み荷物などのセキュリティチェックがあったようです。イギリスの査証の処理はなぜかフィリピンのマニラで処理されるらしく、郵送に時間を要します。申請の受付の段階で、必要書類がそろっているか、チェックされて、それをクリアしてましたので、まず問題はないだろう、と思いながらも、ここにいたるまでだいぶ時間を要し、出発まで1ヶ月をきっていて、気を揉みます。
 提出していたパスポートが、郵送で手元に戻ってきます。イギリスの査証が張られています(ちなみにデザインは、シェンゲンビザとほぼ同等です)。
 ついにイギリスの査証を入手した、という歓びにひたる間もなく、今度はアイルランドに申請。アイルランドは、東京の大使館への郵送での申請です。時間との戦いだ、という焦る気持の中での作業です。
 数日して、アイルランド大使館からメールが来ました。イギリスの査証が取れているのだから、アイルランドの査証は貰ったも同然、と思っていた私の背中を冷たいものが走ります。アイルランド大使館からのメールは、これこれの書類が足りていない、ので用意してください、という内容のものでした。イギリスに対して送ったものとまったく同じものを用意したのになぜ? 
 それは、イギリスではホテルに泊まるのに対して、アイルランドでは姉のうちに泊まるからでした。そのため姉の夫から招待を受けて、アイルランドに行く、という形式にしていたのですが、そうすることで、私の妻と姉の夫の関係を証明する書類が必要となり、姉の夫がアイルランドのこの場所に在住しているという証明が必要となる、という話が出てきてしまったわけなのでした。
 出発までの日もありません。慌てて、アイルランド大使館に電話をして遣り取りをしました。もう日もあんまりない。そんな書類を用意するなんて、現実的にはできない。だったらホテルを予約して申請し直します、という趣旨のことを申しました。
 そんな電話の遣り取りの末、形式的には足りてないけど、十分な内容の書類は用意されているので、今回はオッケー、ということになりました。
 こんなややこしいことについての、アイルランド大使館の日本人スタッフの対応は、誠実で、かつて8年前のイタリア領事館での仕打ちとは、まったく異なり、アイルランドの印象を良くしました。
 こうして、2ヶ月以上の格闘を経て、2国の査証を手にすることができた次第です。